薬学教育について,臨床現場から考えたこと

こんなTweetを見かけました.
呟かれたのは薬剤師兼エンジニアのTomoyuki Kato@tomo_ko9)さんです.

病院薬剤師を辞めて大学院に進学する私にとって,色々と考えるきっかけになりましたので自分の考えをまとめたいと思います.

今回の記事は,

  • 薬学生に一番大切にしてほしいこと
  • 薬学教育を受けた集団の中で働いた雑感
  • 実務実習,ただ引き受けていませんか?
  • 薬剤師は科学者? 何者にもなれない薬学士のリスク

こんなことを書いていきます.

自己紹介

自身の職務経験

まずは私自身の説明です.
私の前職は中規模急性期病院の薬剤部です.
実習担当者として実習生のスケジュールや実習内容の決定,実際の指導を行なっていました.
実習責任者の上司はあまり実習に興味のない方だったため,自分で決めたことがほとんどそのまま行われていました.
それでよかったのかは正直わかりません.
決まったことはmeetingにて他の薬剤師へ説明し,情報伝達を行いました.

学生時代から今まで

自分自身の学生時代についてです.
私は6年制薬学部の卒業です.

私が薬剤師になりたかったのは,

病院に勤めたい → 化学が好き → それなら薬剤師だ!

という安直なものでした.

(こんなですけど)ある程度将来のビジョンも決まっており,入学後6年間深くは考えなかったと言えます.
仕事として薬剤師をやることが当たり前だと思っていましたし,実際にそういう態度をとっていたと思います.
友人の多くも病院薬剤師になりました.

病院薬剤師として臨床を勉強できたことはよかったと思っています.
良い経験でした.
これは,本質的なところは実際になってみないとわからないことだと思います.

現在は,病院薬剤師を”卒業”しました.
戻る可能性も否定はできませんが,今のやりたいことは臨床現場で気がついた課題に別のアプローチで取り組むことです.
それは感染症であったり,研究であったり明確に定まっていません.

問題点の提起

大学教育について

薬学教育は大学ではありますが,実態として薬剤師養成コースになりがちだと思っています.
あえて悪い言い方をすれば,専門バカが出来上がりやすいと言えます.

例えば.
薬剤師はよく学会や勉強会などで”街の科学者”になれと言われます.
ですが本当に科学者になれるような教育を受けているのか,疑問です.
専門科目の多くは,詰め込み的な側面が強いと思います.
”科学”と言える教育は研究室配属が担っているのかもしれませんが,実際には研究室により大きく方針が異なります.
学生教育にあまり力を入れていない研究室が存在するのも現実だと思います.(科学者的な薬剤師の先生方はとてもたくさんいます.ここでは教育の話)

薬学部の教育の目標には国家試験への合格があり,専門科目の勉強・研究・教養などのバランスを取る必要があります.
”国家試験やCBT近くなってからでなく,普段から自習していれば問題ない”という意見には全く同感です.
ですが,学生全体に適応するのは非現実的だとも思っています.
6年も大学教育課程の中にいるのに,いわゆる”理系”,”文系”的な教養を学ぶ機会が少ない.
非常に潰しの効かない社会人の卵が出来上がる.
それが視野の狭い薬剤師を作りやすい下地になっている可能性もあると思っています.

視野が狭いというのも,漠然としていますね.
私が思う視野が狭いというのは,

  • ガイドライン(とっても大切!)だけに注目しすぎて強引な態度をとり,医師(他スタッフ)の気持ち・考えを軽視する
  • 自分の仕事だけ頭にあって,他の人の仕事を知らない.知ろうとしない.知らないのに批判する
  • 患者もそうだが,他職種も人間であることを忘れる.それに無自覚で無駄な軋轢を生む
  • 業務の均一化を考えない.俺ルール推進

などなど.ちょっと生々しいくらいに生っぽい考えを書きました(あえて).
この中には自分のこともしっかり含まれています.
6年制の教育を受けている後輩を見ると,少し状況は緩和している気はします.

薬剤師という職業の捉え方.実務実習

”薬剤師になって,何がしたいのか”

当たり前のようですが、薬学生・教育者にとってこれが一番大切なんだと思います.

  • 大きな病院で救急医療に携わりたい
  • できるだけ多くの給料をもらいたい
  • 医師と直接会話して,チーム医療で解決したい
  • TDMで薬物動態の知識を現場につなげたい
  • 在宅を含めて地域医療を支えたい
  • 臨床研究をして,現場からエビデンスを作りたい
  • 看護師さんとお近付きになりたい(いないか)

受験の面接対策など表面的なものではなく,本音で学生や実習生に意識させる.
学生の思い描く未来予想図を指導側がよく知り、
どうすればできるか.別のアプローチの方が良さそうなのか.
安直に否定はしないで,こういう指導ができれば多少は6年間薬学を勉強してからのミスマッチを減らすことができるのではないでしょうか.

そして実務実習.
なんのために実務実習をするのか?
学生からすればもちろん単位のため.
受入側や教員側は,”なんのために実務実習をするのか?”を意識しているか,していないかで実習を提供する意味なんて全く変わってくると思います.

学生が身につけるべきは「薬剤師として求められる基本的な資質」であり,結果的に身につかなくても提供側は当然意識する必要があると思います.

  • 雑用や実務と関連の薄い自習ばかりさせていたら身につくの?
  • 他の誰かが教えるだろうと、側で実習生が困っていても放置していいの?
  • 学生が何を考えているか,指導薬剤師が何を考えているか.コミュニケーションをとることが一番大切じゃない?
  • 実務を経験すれば勝手に身につくの? ならむしろ実習せずに就職すれば良くない?
  • 薬剤師1年生になったらまずは仕事を覚えることになる.学生である実習生のうちに「基本的な資質」の教育をすることが目的ではないの?

すべて,実習指導をしながら,もしくは実習生の時に思っていた疑問です.
果たして自分の提供している実務実習は,単位を取ること以上に目の前の学生さんのためになっているのか.
現場の生のQuestionを感じてもらえているのか.
そんなことをいつも考えながら,実習生と過ごしていました.

もちろん自分が実習生の時は……ジュウジュンデシタヨ.

解決策(のつもり)

教養の拡充.選択肢の拡充

偉そうに色々言いましたが,ぶっちゃけると私程度の人間に簡単に対案,解決策が浮かぶにであれば既に改善していると思います.
それをふまえた上であえて書いていきます.

まずは最初にご提示したTweetにも関わることですが,
薬剤師の教育には,薬学以外の教育を充実させることが必要だと思います.

現状,リベラルアーツとして低学年時に法学・経済学・語学・社会学などの講義がありますが,その拡充です.
テストなどを厳しく設定する必要はないと思います.
ものすごく雑な例えですが,例えば

  • 将来的に薬学とデータサイエンスをコラボさせたければ数学・情報解析・プログラムなどの簡単な講座のパッケージを作るなどいかがでしょうか?
  • 海外留学を視野に入れているのであれば,コミュニケーションを取る上で必要な諸外国と日本の歴史・文化を学ぶ語学・文化・史学・考古学などのパッケージ.

こんな具合です.
これを下級学年だけでなく,中級学年あるいは実習の合間などに履修できるようにする.
それも真面目に取り組めば講義の中で完結できるように,課題や予習などは不要なスタイルにする.
この提案は,現場の薬剤師の視野を広くすることにもつながるのではないでしょうか?
また,いざ卒業が近くなって薬剤師になることにギャップを感じるようであれば,他の分野にアクセスするきっかけ・知識を得ることができます.

ただのきっかけでいいんです.超入門で十分なんです.

知らない選択肢は,選ぶことができません.

OB・OGの有効活用

先の提案もかなり夢物語ですが,こちらも負けておりません.
必要な人員にはボランティアではなく,インセンティブを与えます.
現場の薬剤師にとっても,母校とのつながりは時には金銭以上に必要な場面があると思います.

学生の気持ちに寄り添うことができるのは,果たして”現役の薬学研究者”と”現役の若手薬剤師・(薬系)会社員”どちらでしょうか?
多くの学生が研究者にはならない以上,現場の若手の方が助けになりやすいと思います.
もちろん,現場出身の実務系教員は現役の薬剤師と同じだと思います.
希望者にはいわゆるオフィスアワーのように時間を設け,面談するというのはどうでしょうか?

協力してくれる医療機関や会社がどれくらいあるのかという問題点がありますが,
現状でもOSCEの補助など協力しているところはあるのでゼロではないかも?

まとめ

今回の記事で一番言いたいことは,薬学生の意識改革ということです.
薬剤師になりたいのはなぜか,何をしたいからなのか?
この問いを表面的でなく本音で考える・想像する機会を持ってもらうことが,何かを変えるきっかけになるのではないでしょうか.
そしてそれを正しく共有するが大切だと思います.

今回の記事は個人の意見であり”正しいもの”であるとは思っていません.
あくまで日々の業務の中で思っていたことを,アウトプットしたにすぎません.
何か,誰かへの提案というほどでもありません.

現場で働いている薬剤師の皆さん,誰しも業務に何かしら思うところがあると思います.
その意見を膨らませると,意外なきっかけになるかもしれません.
仕事を辞めることになった私は,少々極端な例ですが.

それでは.

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