前回に引き続き,第105回薬剤師国家試験の薬物動態学の問題を解いていきたいと思います.
2日目の問題を解いて思いましたが,今回の問題は求められる知識としてはなかなか難しいのでは?(解いたのは薬物動態の範囲のみです)
比較的マイナーなCYPの分子種も出ていますし,B型肝炎治療薬の核酸アナログ製剤の細かい特徴まで出題されています.
まあ落ち着いて考えれば,消去法と一般的な国家試験対策の知識で答えを出すことは可能とは思いますが.
問題は薬学ゼミナールさんのホームページから.
一部引用させていただいております.
前回同様,計算問題は一番最後に記載しました.
1日目の必須問題・理論問題はこちら.
2/26更新 問271の計算過程において,CpssからCssへ略語を修正
実践問題


問266
答え 2
問267
答え 1
エルロチニブ(タルセバ®︎)は,胃内pHの上昇で吸収の低下が見られる可能性がある.
用法も食事によるpHの上昇の影響を避けるため,食事の1時間前か食後2時間とされている.
非小細胞肺癌に使用されるTKIは,薬剤によって内服タイミングが異なるため注意が必要.
専門医でも勘違いすることがあるので,薬剤師にとって重要なチェックポイントの一つ.
よってエソメプラゾール(ネキシウム®︎)の中止が必要.
ラニチジン(ザンタック®︎)をはじめとするH2ブロッカーも,PPIほどではないが胃内pHを上昇させるため避ける必要がある.
蛇足ではあるが,PPIの中止をするためアスピリン腸溶錠の胃粘膜障害についてモニタリングが必要.
場合(疾患)によっては処方元の医療機関に連絡し,バイアスピリン投与継続の必要性を確認することもある.
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問268
答え 5
問269
答え 5
沈降炭酸カルシウム錠は,保存期及び透析中の慢性腎不全患者に適応のある高リン血症治療薬.
よって,投与されている患者さんの腎機能は著しく低下していることが予想される.
レボセチリジン(ザイザル®︎)は,腎機能低下状態では高い血中濃度が持続する恐れがあり,重度の腎障害のある患者さんには投与禁忌となっている.
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答え 2
CYP3A5が関連することを出題するのはかなりの難問.
TDMガイドラインを読もうにも,出版物なので手元にない…….
PubMedで引けば関連論文出てきますが,1つ選ぶことは無理でした.
時間あるときに探したいところ.
CYP2C19遺伝子は,タクロリムスの代謝にはあまり関与しないため1と3は✖️
ピタバスタチンはそれ自体あまりCYPの代謝を受けないため競合せず4は✖️
カルバマゼピンはむしろCYP3A4を誘導するので5は✖️
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答え 1
ワルファリンは主としてCYP2C9によって代謝される.
CYP2C9の代謝活性に影響を与える遺伝子変異として,CYP2C9*3やCYP2C9*8などがあげられる.
細かい話に触れれば,日本人の今回のようなケースはCYP2C9の遺伝子変異単独では起こりづらい.
薬物動態過程でなく薬力学過程に関連する,VKORC1遺伝子変異の影響によりワルファリンへの感受性が高い形質である可能性も考えられる.
CYP2C19はPPI,CYP2D6はコデイン,UGT1A1はイリノテカン,NAT2はイソニアジドの代謝などに関連する遺伝子である.

答え 1
深部静脈血栓症の治療薬としてのワルファリン(ワーファリン®︎)の代替薬を問われているため,
・シロスタゾール(プレタール®︎) 2
・ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(プラザキサ®︎) 3
・チクロピジン(パナルジン®︎) 4
は積極的に選ばない(適応なし).
さらに,ダビガトランはイトラコナゾールと併用禁忌(イトラコナゾールのP糖タンパク阻害).
深部静脈血栓症に適応があるのは,
・アピキサバン(エリキュース®︎) 1
・リバーロキサバン(リクシアナ®︎) 5
であるが,リバーロキサバンはダビガトランと同じく,イトラコナゾールと併用禁忌(イトラコナゾールのP糖タンパクとCYP3A4阻害).
よって,アピキサバンを提案すべきである.
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答え 3,5
✖️1.小児においては注射剤での投与開始することが添付文書に記載されている.また,腎機能にも大きな低下がなさそうであるため,注射剤投与時に注意が必要なシクロデキストリンの蓄積も現時点では問題にならない.
✖️2.小児の投与量は年齢にもよるが,成人より少ない投与量ではない.
✖️4.ボリコナゾールは定常状態への到達は5-7日目とされ,TDMガイドラインにおいてそれ以降での採血が推奨されている.
ボリコナゾールを投与するような場面は,バンコマイシンなどとは異なり長期戦を想定していることが多いためあまり問題にはならないが,
血中濃度測定を外注した場合,かなりの日数がかかることには注意が必要.
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答え 3
HBc抗体が陽性.HBs抗原,HBs抗体陰性のためHBV既往感染例と考えられる.
HCV抗体が陰性のため,HCVの感染は否定される.
CMV,HSV,HIVについては今回の検査からはわからない.
他のウイルスとHIVの感染を併発している場合もあり,その場合は治療薬の選択など難渋するためHCVやHBVの感染が疑われる場合HIVの検査も必須である.
HIVの存在を知らずに,他のウイルス治療を開始すると肝機能障害のリスクが高く,進行も早いとされる.
HBVとHIVどちらにも感染している場合,HBVの治療薬はHIVの治療薬でもある.
そのため多剤併用が必須であるHIVに対して単剤で治療をすることになり,
耐性化によりHIVに対するKeyドラッグを失うリスクがある.

答え 2
テノホビルアラフェナミド(TAF)(ベムリディ®︎)とテノホビルジソプロキシル(TDF)(テノゼット®︎)の比較.
TAFはTDFの改良された薬剤の位置づけ.
TDFよりも血漿中の加水分解を受けにくく安定であり,より少ない投与量で効果を得ることができる.
これによりテノホビルとしての循環濃度が低く抑えられ,第III相試験においてTAFの方が骨密度の低下の副作用が有意に低かった.
実践問題の計算問題


問271
\( D = AUC × CLtot\)
\((D = 投与量 AUC = 血中濃度時間曲線下面積 CLtot = 全身クリアランス)\)
より,
\(CLtot = \displaystyle\frac{12 × 10^6[ng]}{720[ng・hr/L]}\)
\(CLtot = 16.7 × 10^3[mL/hr]\)
CLtotが求まる.
次に,
\( Rin = Css × CLtot\)
\((Rin = 投与速度 Css = 定常状態の全血中濃度)\)
より,
\( Rin = 10[ng/mL] × 16.7 × 10^3[mL/hr]\)
\( Rin = 167 × 10^3[ng/hr] = 0.167[mg/hr]\)
1時間あたりの投与速度になっているので,24時間あたりに変換して1日投与量とする.
\( Rin = 0.167 × 24[mg/day]\)
\( Rin = 4.008[mg/day]\)
よって,タクロリムスとしての1日投与量は4mgとなる.答えは3.
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非線形性の薬物動態を示す薬物は,ミカエリス・メンテン式により投与設計が可能である.
\(v = \displaystyle\frac{Vmax × [S]}{Km + [S]}\)
定常状態の場合,消失速度と投与速度が同一になるため変形でき,
\(Rin = \displaystyle\frac{Vmax × Cpss}{Km + Cpss}\)
\((Rin = 投与速度 Vmax = 最大反応速度 Cpss = 定常状態の血漿中濃度)\)
初期投与量(2日目以降)のデータより(1日投与量は400mg/dayとする),
\( 400 [mg/day] =\displaystyle\frac{Vmax × 1.0[mg/L]}{0.5[mg/L] + 1.0[mg/L]}\)
整理して,
\( Vmax = 600[mg/day]\)
得られたVmaxを利用して,変更後の投与量[mg/day]を求める.
\(Rin[mg/day] = \displaystyle\frac{600[mg/day] × 2.5[mg/L]}{0.5[mg/L] + 2.5[mg/L]}\)
\(Rin[mg/day] = 500[mg/day]\)
よって,答えは1.
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